2016.04.24 ( Sun )

ヒヤリハット事例と対策のためのヒヤリハットレポート作成


看護師のヒヤリハット対策の研修

看護管理者によるスタッフのケア(ラインによるケア)について、事例をもとに考えてみたいと思います。

新人ナースのストレスは?

新年度を迎え、病院に新人ナースがやってくる時期になると、迎える側はその準備や対応に追われます。2010年度から新人看護職員の臨床研修が努力義務化されて以来、その傾向に拍車がかかっているようです。

医療事故が多発する現状において、実施者として法的責任が問われる可能性も高い看護職は、その基礎教育から医療安全に膨大な時間とエネルギーを費やしています。

しかし一方で、基礎教育で多くの時間を医療安全に充てた結果、患者ケアに直接関わる技術を身につける時間が減り、臨床現場においては技術面に不安をもったまま働く新人が増えてしまうという皮肉な現象が起きています。

卒後すぐに現場に出た新人ナースは、自分の看護技術に自信がなく、それが「いつか事故を起こすのではないか」という不安と辞めたいという気持ちにつながってしまうのです。

新卒看護職員の早期離職等実態調査

新卒看護職員の仕事を続けるうえでの悩みの上位に、「医療事故を起こさないか不安である(69.4%)」とともに、「基本的な技術が身についていない(67.1%)」が挙げられていることが、その実態を物語っています。

新卒看護職員の仕事を続けるうえでの悩み(複数回答 上位4位)
1.配置部署の専門的な知識・技術が不足している…76.9%
2.医療事故を起こさないか不安である…69.4%
3.基本的な技術が身についていない…67.1%
4.ヒヤリハット(インシデント)レポートを書いた…58.8%
日本看護協会「2004年 新卒看護職員の早期離職等実態調査」より

組織で取り組むストレスマネジメント

職員の悩みに、「ヒヤリハット(インシデント)レポートを書いた(58.8%)」が上位にあることにも注目すべきでしょう。

「このまま看護師を続けることさえ許されないのではないか、はやくこの看護職を辞めて自分にあう職業を見つけるべきではないか?」そんな不安な状況を先輩たちはどれほどわかっているでしょうか?そこで、せめて新人ナースのいちばん身近な相談役となるプリセプターには、新人ナースのそうした不安を理解するための研修の機会をつくられました。

ヒヤリハットレポートを書く

それは、プリセプター研修での一場面、時期的には、徐々に実践の業務もこなし始めた4月後半です。「プリセプターシップにおけるコミュニケーションスキル」と題して、ロールプレイを組み込んだ研修です。

いくつかのロールプレイ場面の中に、「はじめてのヒヤリハットレポートを書く(必要性の説明)」というシーンを導入しました。

具体的には、下記のような設定です。

心不全で入院中の85歳の女性患者さん。医師の指示は、「輸液は500 mlを12時間かけてゆっくり」という内容。しかし、輸液の管理を怠ったために1時間で200 mlも落としてしまった。

それも申し送り直後の準夜勤の先輩ナースに指摘され気づく始末。幸い発見が早かったため、バイタルに異常はなかった。

ヒヤリハットレポートを書くよう指示された新人とプリセプター

プリセプティ(新人ナース)、プリセプター、観察者の3人一組になって一生懸命新人ナースの心情を考え、 ロールプレイを実践します。

新人ナース「すみません、すみません……」(と、うなだれる)

プリセプター「新人の頃は私も何枚も書いたから……。これはみんなで情報共有するためのもので、反省させるためのものじゃないから」といった調子です。

それぞれが本当に真剣で、言葉だけでなく、新入ナースを気遣い、なんとかフォローしたいという思いが伝わってくるようなロールプレイでした。

コミュニケーションにおける、ノンバーバル(非言語的)情報は、 80%とも90%ともいわれますが、それを肌で感じることができる場面でした。

そんな中、あるグループに異変が起こりました。プリセプター役の一人(Aナース)が泣き出してしまったのです。

Aナース自身の言葉によれば、 自分が新人ナースの頃、はじめてヒヤリハットレポートを書いた時のつらい気持ちがフラッシュバックしたというのです。

このままナースを続けることさえ自分は許されないのではないかという思いで仕事をしていた時に、やさしい声をかけてくれた先輩がいた。

その同じ言葉を目の前の新人ナース役に話しかけている自分に気づいた時、涙が溢れ出したということでした。

その場は、感情のコントロールがうまくできない自分を少し恥じるかのような素振りをみせるAナースに対して、「あなたのその感受性の強さはナースにとってはとても大切なものだから」と、支持・受容することに努めました。

次に、他の受講者には、「Aさんのような強い感受性をもつ人がいることを理解する大切さを学んでほしい」と話して、その研修は終了しました。

新人ナースには欠かせない「ラインによるケア」

看護師の仕事の継続に関わるストレス(看護師を辞めようとまで考えたストレス)について2006年に面接調査を実施しました。

対象者は、10年以上の経験者がほとんどでしたが、そんな方々でも、看護師を辞めたいと思ったのは「ヒヤリハットやインシデントを起こした時」と答えていたことをはっきりと覚えています。

そして、そこで辞めずに現在も働き続けられているのは「同僚や上司、先輩の声がけと支え」だということでした。

前述の日本看護協会の調査では、 イマドキの新入さんは、「支えは同期の同僚」ということですが、上司や先輩の名前が出てこないのが少し淋しい気がします。

こうして考えていくと、新人ナースにとっても、ベテランにとっても、 ヒヤリハットやインシデントレポートを書くことが相当なストレスであることは事実です。

だからこそ、そうした事例に関わる管理者の役割も重要になってきます。

ただ、最近は医療安全の専任スタッフを配置する病院も増え、そうしたレポートは所属長を経由せず、専任スタッフに直接提出するシステムが定着してきました。

以前のように師長さんや主任さんの顔色を伺いながらレポートを出すストレスは減ったかもしれません。それでも、 レポート類をシステムの改善に結びつけるためには、当該部署へのフィードバックは不可欠です。

組織で取り組むストレスマネジメント

ヒヤリハットやインシデントの報告システムをいくら変えても、所属長や周りのスタッフはその事実を知っていますし、当事者もそのことを肌で感じています。

所属長を経由しないレポートシステムは、管理者の当該スタッフヘの精神的支援をかえって阻害する要因になっているかもしれません。

一方、あらゆる書類はすべて所属長経由でタテのラインを重視する組織もまだまだあります。

しかし、マニュアルや書類の溢れる現状では、一枚一枚の報告書の向こうにあるスタッフー人ひとりの顔を思い浮かべ、気になるスタッフにサポーテイブな関わりをもつことは至難の技です。

たとえその必要性は理解していても、交代勤務の多い看護職がタイムリーな関わりをもつことは困難な環境があります。それが看護の現場で管理者にコーチングのスキルが根付かない要因の一つかもしれません。

それでもスタッフはよく見ています。師長さんや主任さんの言動を。「大文夫?」のひと言でもいいのです。

「あなたのことを心配している」というサインを送ることが大切です。可能な限りface to faceで、難しければロッカーやタイムカードにメモ書き一つでも。最近では、メールという便利なツールもあります(しかしこのツールは、相手や内容によっては逆効果の時もあるので要注意)。

そうしたサインを送ることが、 コーチングの主要なスキルである”承認”のはじめの一歩です。

まとめ

前述のロールプレイは、研修前夜にふと思いついて設定した場面でしたが、20年近く前に新人ナースとして働いていた頃、はじめてヒヤリハットレポートを書いた事例とそっくりでした。

新人ナースのストレスはこうして心の根っこに繋がり、看護職を辞めたいと思う心情を回避しているのかもしれません。


この記事に使用している画像は、洛和会ヘルスケアシステム:求人情報から引用させて頂いています。

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