2016.04.25 ( Mon )

クレーム対応ケアが対策できなく看護師を辞めたいと思った


クレーム処理対策で悩む看護師長

昨今の患者や家族からのクレームは、医療現場の過酷な労働環境の主要因にさえなっています。特に看護師は、いろいろな場面でクレームの矢面に立つことも多く、その対応にはラインマネジャーである師長があたるのが一般的です。

その対応過程ではクレームを冷静に受け止めると同時に、スタッフに対するケアの視点も大切です。

患者、看護師、診察医 それぞれの言い分を聴く

「師長さん大変です! ちょっと来てください」。外来のスタッフからの連絡でA師長がかけつけると、 その患者さん(B)は「あんな看護師(C)はクビにして!」とかなりの剣幕です。

クレームの内容を要約すると、待ち時間の長さと、順番が前後したことの説明がなかったというものです(その結論に行き着くまでにもずいぶん時間がかかりますが)。一方、対応したC看護師は、「一度お名前をお呼びした時には不在のため(順番だけとって外出していた)、順番が変わったのです。

戻ってきたとたん、”電車に乗り遅れるから早く診察してほしい”と急に言われても対応できません」と不満顔です。“患者さんはBさん一人じゃありませんから”と顔に書いてあります。

クレーム処理の流れ

このように師長が患者さんやご家族のクレーム対応で呼び出されることは日常的にありますが、師長にとってはかなリエネルギーがいる仕事の一つです。

師長次第で看護師離職率も変わる

特に外来はクレーム発生の多い部署で、下手をするとその対応だけで一日が終わってしまい、ストレスとの格闘になり師長、、いや看護師自体を辞めたくなることも少なくありません。

師長自身がクレーム処理に消極的で、とりあえずその場を収めるために患者には平謝りし、当該スタッフには「あなたのせいで私が怒られたじゃない」と言わんばかりの対応で終わってしまうことも多いのです。

そうなると「私、もうこの病棟で働くことは無理です。辞めさせていただきます。」という火に油を注ぐ状態にもなりかねません。

しかし、現実には当該スタッフはむしろ被害者で、患者のほうに問題がある場合や、病院のシステム的な要素が影響している事例も少なくありません。そうなると、院内からの反発やクレームさえも発生し、 もぐら叩き状態の悪循環に陥ってしまいます。

一方、被害者となったスタッフのことをなんとか守りたいという一心で、スタッフの弁護にまわることに終始する師長の姿もよく見受けます。この場合は、 クレームの相手の怒りを助長するため、師長自身が板ばさみになることが多いようです。

効果的な文書化

クレームの多い部署こそ、その背景にある様々な要因を分析し、再発防止に努める視点での対処が求められます。基本的には、インシデントやヒヤリハットの分析と同様の扱いと考え、文書化して整理することも効果的でしょう。

ヒヤリハットの詳細や対策については、ヒヤリハット事例と対策のためのヒヤリハットレポート作成をお読みいただき参考にしてください。

文書化というと、書類のあふれている今の医療現場では否定的に捉えられがちですが、それを逆手にとって、「報告義務があるから」と情報収集にいくと、「師長さんも大変ですね」と職種を問わず(お互い報告書類に苦労しているため)、みんな情報提供に協力してくれます。

こうした対策は、現場である医療機関がそれぞれ実施するとともに、
関係する全ての団体が、その立場や能力を活かして、それぞれの役割分担と
連携の下、一致して取り組んでいくことが不可欠である。

厚生労働省の「医療事故を未然に防止するために

支援構造を作ることから

逆説的にいえば、 こんなピンチの場面に支援してくれる関係を日頃から構築しておくことが重要かもしれません。

そこで現場に駆けつけたA師長が情報収集した結果、患者であるBさん側の言い分は、(自分の行動はさておいて)電車に乗り遅れそうで困って看護師に言ったのに、その時の看護師の態度が横柄で親身になってくれなかったことへの怒りが中心でした。

外来のスタッフ(C看護師以外の周りの受付や看護師も含めて)の意見をまとめてみると、「Bさんはいつもこうして順番だけとっていなくなったり、突然戻ってきてわがままを言う」とラベリングされていました。

「もし、ほかの患者さんだったら同じ対応をしていた?」というA師長の問いには、「Bさんじゃなかったら、別の行動をとっていたのかもしれない」という答えでした。

昨今のクレームには、対応したスタッフにも問題はあるのかもしれませんが理不尽とも言える攻撃的な内容も少なくありません。明らかに金銭要求を目的とする悪質なものさえ急増しているようです。

そこでA師長は、お互いの言い分を共感的態度で聴くことに努め、Bさんに対しては、周りで聞き耳を立てている方々も意識しつつお願いしました。

「Cの対応が悪かったのは私の指導不足なのでお詫びいたします。ただ、Cも何度もBさんのお名前をお呼びしたのにいらっしゃらなくて本当に困ったようなので、今後席を離れる時には受付に声をかけてください」

そうこうしているうちに診察の順番がきたので、Bさんに了解を得て診察に同席させていただくと、先ほどまでとは別人の様子で診察を受け、にこやかに帰られました(医師の前だと豹変するこうした患者の態度も看護師のストレス要因の一つで、人間不信になり辞めていく看護師も多いのが実態のようですが)。

A師長は、その日の診察終了後、C看護師や診察の担当医を含めて外来スタッフで話をする時間を作りました。スタッフの言い分は、「あんなわがままを許していてはほかの患者さんのほうが気の毒だから、 もっときつく言ってください」というものでした。

診察医師の対応

一方診察医の思いとしては、「本来Bさんの希望する薬は、近くのかかりつけ医でも処方できるものだ。地域の中核病院である当院まできて長い待ち時間を費やすのは患者にとってもメリットはない。

過去の診療録を読んでみても、診察した医師が何度紹介状を書いてもこうして戻ってくる。問題のある患者さんはいつもこうして押しつけられる……。いつも“薬だけ出して”と要求するが、診察もしないで薬は出せないから“ちょっと待たせておいて”とC看護師に指示した」ということでした。

クレームの背景にある医療システムの歪み

この事例の場合、C看護師が本当に横柄な態度であったとして、その場でA師長がBさんの言い分を聞き、平謝りして、C看護師をしかりつけたらどうだったでしょうか?

Bさんは満足して、勝ち誇ったようにその場のクレームは収まったかもしれません。しかし、次の来院時もまた同様のトラブルを起こす可能性は高そうです。

今回の事例の場合、患者側の言い分だけを一方的に信じるのではなく、スタッフの言い分にも師長がきちんと耳を傾ける姿勢を示しました。スタッフは、逆に自分たちがBさんにラベリングしていたことに気づき、対応の問題点にも素直に目が向きます。

そして、担当医自身からC看護師をかばう発言まで聞くことができました。また、担当医の指摘している現状は、Bさん一個人の問題ではなく、地域の中核病院とかかりつけ医との信頼関係や連携システムにも影響を及ぼす大きな問題にもなりかねません。

そのため、A師長は継続して情報収集したところ、Bさんが当院に戻ってくるのは、生活保護受給者であるがゆえに(行政側の指導等により)病院へのアクセスの制限がかかりやすいことも影響している事実が明確になりました。

脅かしの連鎖を断つ覚悟

今回の事例のように、待ち時間や順番の前後といった日常的にどの病院でもありそうなクレームーつをとってみても、背景にこれだけの要因が複雑に絡み合っていることがわかります。このクレーム一つに心が折れて看護師を辞めるという理由も実は多いのです。

日々のこなすべき膨大な業務に加え、 クレーム処理に代表される突発的問題に対処することが、ラインマネジャーをどれほど疲弊させているのかはよく理解しているつもりです。

患者からの攻撃、スタッフの開き直りともとれる態度(逆に必要以上に萎縮して自分を責め続ける態度)、そして上司からの評価。すべてが師長自身を脅かしているのが現実です。

師長自身を脅かしているのが現実

師長自身がメンタルヘルス問題で休職している事例、ストレス性の円形脱毛症になりかつらをかぶって勤務している事例、 うつを抱えながら業務を外れることさえ許されない事例等、看護師のストレスのは想像以上であり、マネジャーの置かれた数多くの過酷な現状があります。

しかし、そこで師長までもが弱い立場の部下やスタッフを脅かしてしまっては離職していく看護師が耐えなくなり、元も子もありません。どこかで、この脅かしの連鎖を断つことが求められています。

まとめ

犯人探しをしたり、被害者意識をもつことは何の解決にもならないでしょう。「患者のためという呪縛」によって成り立っている看護サービスを管理する師長には、 この厳しい現場だからこそラインによるケアの視点が求められ、部下の看護職からの離脱をおさえることが患者のためになっているのです。

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